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水戸地方裁判所 昭和48年(行ウ)18号 判決 1973年11月22日

原告

吉葉一

被告

水戸地方検察庁竜ケ崎支部

検察官副検事

志村利造

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の提出にかかる行政事件訴訟申立書、訴状、各訴状補充書(昭和四八年一〇月二〇日付、同月二九日付各二通、同月三〇日付一通)の記載によれば、要するところ、原告は、「水戸地方検察庁竜ケ崎支部検察官副検事志村利造が昭和四八年九月一〇日付でした原告に対する公訴提起処分を取り消す。」との判決を求め、請求原因として次のとおり主張する。ということに帰する。

一  原告は、昭和四八年九月一〇日、被告検察官から、(一)昭和四八年八月四日午後八時三〇分ころ、茨城県稲敷郡牛久町田宮四一番地所在株式会社寺田電気商会において、寺田孝子からビクターポータブル五型白黒テレビ一台(時価一万八、七〇〇円相当)を騙取し、(二)同日午後九時ころ、同町大字牛久二八三番地所在呉服洋品商近江屋こと木瀬酒造蔵方において、木瀬修から仕上りカーテン二四枚(時価三万二、四九〇円相当)を騙取した、との各詐欺の公訴事実により水戸地方裁判所竜ケ崎支部に公訴提起を受けた。

二  しかし、原告は、被告検察官の主張する右犯行日時ころには、当時勤めはじめた同県土浦市真鍋町天王後二、一八七番地の一所在の土浦フラワーガーデン事務所におり、同日午後九時ころ同事務所を出て真直ぐ帰宅し、それから自宅西隣りの同県筑波郡谷田部町大字下河原崎三七六番地所在吉葉忞方で二〇分くらいお茶等の接待を受けていたのであつて、被害者方などへは行つていないし、また、本件証拠物として原告方から押収されているカーテン、ポータブルテレビは、いずれも他の店から正当に買い入れたもので、本件詐欺事件とは全く無関係である。

三  しかるに、被告検察官が原告を起訴したのは、原告と、同人が以前勤めていた同県稲敷郡牛久町大字柏田新田三、三三四番地所在脇田建設株式会社との間に、給与の支払等に関し紛争を生じたため、右脇田建設株式会社から日頃接待を受け特殊な関係にある同県竜ケ崎警察署の幹部達が、右脇田建設株式会社と計つて原告をおとしいれようとし、違法不当な捜査を行ない、これに被告検察官が加担したからである。

四  したがつて、原告が無実であることは明白であつて、被告検察官のした本件公訴の提起は、職権を濫用した違法不当なものであり、ただちに取り消されるべきである。

理由

原告は、検察官の公訴提起行為を行政処分とみてその取り消しを求めている。

しかしながら、検察官の公訴提起行為は、公訴権の行使として裁判所に対し刑事訴訟手続を開始させる訴訟行為であり、かかる行為の適法性の有無、理由の有無については全べて当該刑事訴訟手続において判断すべき筋合であつて、これと別個の訴訟手続である行政訴訟において判断できるものではない。すなわち、検察官の公訴提起行為は、行政訴訟の対象となる行政処分にはあたらないのである。

したがつて、検察官の公訴提起行為の取り消しを求める本訴請求は不適法であり、かつ、その欠缺が補正することのできないものであるから、その余の点について判断するまでもなく、民事訴訟法第二〇二条により口頭弁論を経ずにこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石崎政男 長久保武 武田聿弘)

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